リーグ概要

リーグ会長挨拶

〜理念とビジョン〜

メトロポリタンリーグ会長
永井良和(関西大学教授)
夢を追いつづける

 各チームのプロフィールをご覧ください。たとえば、綱島ボブルヘッズ。このチームのユニフォームへのこだわりは、〈執着〉とも呼べるものです。「何もそこまでせんかて」という声も、ないわけではありません。しかし、このこだわりを大事にしたいのです。いつか着てみたかったユニフォームを着てプレイする。なくなったチームへの思いをこめてデザインする。憧れの選手と、同じユニフォームを着てみたい。−−子どものころの夢を追いつづけることこそが、このリーグに参加する人たちの基本的な姿勢です。〈まず、かっこうから入る〉というのは、何かを始めるきっかけとしてよいことだと思います。

歴史をだいじに

 関西では、1988年に南海ホークスと阪急ブレーブスという老舗チームが消えました。そして、2004年。プロ野球の世界は大きな危機に直面し、大阪近鉄が、合併というかたちでなくなりました。バファローズという名前は残っていますし、神戸や大阪の球場で合併後の球団のゲームを見ることは可能ですが、関西の私鉄がもっていた球団は、いまや阪神タイガースひとつだけです。
 子どものころ、自分が乗る電車のチームを応援していた。将来はプロ野球選手になって、そのチームに入団するんや。−−そう心に決めた人は少なくないでしょう。高校生くらいのときに、プロ野球選手になることはあきらめた。あきらめたけれども、自分の街のチームを愛しつづけた。ところが、そのチームがなくなってしまったのです。タイガースのファンは幸福ですが、他のチームのファンは、行き場をなくしました。
 じゃあ、自分たちのチームをとりもどそう。ついでに、自分が選手になる夢もとりもどそう。その意気込みが、このリーグを支えています。

誰にでもやさしく

 同級生に、とんでもなく野球のうまい少年がいたとき、多くの人は自分が選手になることはできないと観念します。そして、野球を見る側にまわりました。
 学校では、技量に優れた少年が集められ、そして甲子園を目指すことになっていました。会社でも、腕に覚えのある人が中心になってチームが結成され、ふつうの人はレクリエーションの大会にしか出られません。この国で野球選手としてプレイしつづけることができるのは、ほんの一握りのエリートだけなのです。
 学校と、企業に、スポーツを広告代わりに利用させた結果が、これです。たしかに、見るスポーツとしての野球は、高い技術に支えられるべきでしょう。しかし、いっぽうで、私たちは自分のからだをつかってボール遊びを楽しみたい。その思いは、簡単に捨てられないものです。もういちど、グラウンドに立ちたい。フィールドを駆けてみたい。この情熱が、私たちのリーグを支えるもうひとつの原動力です。
 ソフトボールは、〈野球をしたくてしたくてたまらなかったのに、できなかった〉という女の子たちに親しまれた種目でもあります。でも、進学したり、就職したり、結婚したりしてしまうと、女性がスポーツをつづけることはむずかしい社会です。思いを受けとめてくれるチームやリーグがないからなのですが、これも、この国のスポーツの問題点でしょう。メトロリーグでは、女性たちをマネージャーやスコアラーや少年野球チームのお母さんたちのような〈裏方〉としてではなく、プレイヤーとして歓迎します。また、見る側でファンとして声援を送ってきた女性たちにも、ボールゲームそのものの楽しみを知っていただきたいと思います。

原点に帰る

 見るためのプロ野球は、完成されたショウです。鍛え上げられた身体のみがもつ、スピードとパワーに支えられています。類まれな精神力と球運をもった、ごく限られたプレイヤーたちが舞台に立ち、歓声に包まれます。
 しかし、この舞台は、ボールゲームの原点からは、あまりにもかけ離れたものになってしまいました。ふつうの人が参加することはできず、ただ、拍手を送るしかありません。私たちじしんが主役になるためには、ボールゲームがもっと素朴で、どこでも、誰にでも楽しめる遊びだったころのかたちに帰る必要があります。
 スローピッチは、野球がまだ、未完成だったころのかたちを受け継いでいます。ピッチャーは、誰にも打てる、ゆっくりした山なりのボールを投げます。バッターは、大きな皮のボールがバットの芯に当たったときの、なんともいえない感触を味わうことができます。10人で守備をするので、しろうとでもダブルプレイの爽快感を得られます。参加の可能性を最大限に拡げ、安全に楽しむためのルールをつくり、みんなで運営する。街角の、あるいは原っぱのボールゲーム遊びの悦びが、ここにあります。

人のつながりをひろげる

 2007年。リーグ創設に結集したチームは4つ。確率変動は地域の顔なじみチーム。メディアスは職場つながり。ホットブラザーズは学校。そしてボブルヘッズはネットで知り合った仲間が中心です。それぞれのチームは、もしかすると地域のリーグ、職場の大会、学校の連盟……そういったところでバラバラに活動していたかもしれません。そしておそらく、そういうグループの競争のなかでは、よい成績を残せなかったでしょう。
 しかし、学校だとか、企業だとか、そういった枠をこえた仲間づくりができないか。各チームのメンバーが集まり、経験を生かして、考え、工夫しました。そして、みんなが楽しめるルールが整い、リーグ運営が始まりました。中高年も若い人も、女性も男性も、仕事にかかわりなく、ひとつのボールを楽しく追いかける。そういうボールゲームは、実現可能だと信じています。そして、そういうリーグでありたいと思います。

Mリーグ〈10年ずつ〉構想

 Jリーグは「百年構想」をもっています。しかし、私たちは100年先を見届けることができません。どうしましょうか。
 メトロポリタンリーグは、東のメガロポリスリーグとともにスローピッチソフトボールの楽しさをつたえていきたいと思います。東京の古いチームは10年以上の活動歴をもっていて、リーグも数年前から大きくなっていますが、相互に対戦するだけでなく、さらに活動の範囲を拡げていこうと努力しています。関東でのリーグ戦運営だけでなく、東北地区のチームとの交流、国際ゲームの開催など、目覚ましい展開を見せています。
 関西では、これまでDDFウエストが、地道な〈伝道〉をしてこられましたが、私たちも、この輪をさらに広げていきたいと考えています。「スローピッチ」といっても、いまは言葉の意味さえすぐには理解してもらえません。ソフトボール経験者が、〈ああ、そういえば、年配の人たちがする、あれ〉と言ってくれるていどです。そのセリフは、プロ野球をめざす選手たちが、軟式やソフトを見くびって言うときの言葉に似ています。しかし、スローピッチをいちど体験すると、そんなに簡単なものではないことがわかります。硬式野球の経験者や、ファストピッチ・ソフトボールの選手たちが、遅いボールにキリキリ舞いし、真っ芯でとらえたヒット性の打球が10人目の野手に好捕されるといった、おもしろいシーンが見られるからです。
 原点に近いスローピッチは、技術的に高められた硬式野球とは、またちがった奥深いボールゲームなのです。きっと、野球好きな人であれば、この面白さを理解して、楽しむことができるはずです。いずれは、〈次の日曜、スローピッチしよう〉といえば、誰もが笑顔になるような、そういうふうな世の中になればと思います。

 ただ、それには少しばかり時間が必要です。とりあえず、10年はつづけたい。いまの主力は30歳代から40歳代なので、プレイヤーが50歳を過ぎるころまでは継続して、同時に、理念を受け継いでくれる若い人たちも育てたいと思います。
 リーグやチームなどの、組織を維持するのが主目的ではありません。参加するプレイヤーみんなが、健康に歳をとっていくことがだいじだと思います。10年経ったとき、同じルールで楽しみつづけることができていたなら、私たちの試みは成功だったといえるでしょう。10年後の若い人たちが、年老いたメンバーと楽しんでくれるかたちになっていれば、私たちの意気込みは伝えられたと思います。そのときに、まだメンバーに体力が残っていれば、リーグの構想を20年に延長しましょう。
 人の輪が広がって、参加するチームが増えることも夢です。技術をより高めたいという意識で、別のリーグが立ち上がるということもあっていいと思います。高齢者のシニアリーグが必要になるかもしれません。そうなっても、年に何試合かは、交じり合って楽しむ場をもつのが理想です。

 ボールゲームを私たちの手に取り戻す。ボールパークの夢を私たちの手でつくっていく。それが、リーグの〈10年ずつ〉構想です。